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包む紙・切抜き帳
日々の中で出会う様々な紙。私は紙がすごく好き。正確には、紙に文字や絵がデザインされた印刷物に魅かれるんだと思う。紙袋や包装紙、パンフレットなどなど……20年以上紙片を収集していて、いくつもの引き出しに、大切に残してある。この収集癖は、5年前に京都に工房を借りてからより加速した。昔から変わらない錦市場のレトロな包み紙や、老舗の和菓子の包みなど、京都には紙好きの私にはたまらない刺激が、沢山あるところだからだ。もちろん、その中身の美味しい刺激に、ちょっと幸せな気分になれる。いつも包みの紙を眺めながら、その作り手の想いを独り勝手にあれこれ想像している。

去年、雑誌の仕事で老舗の和菓子屋を訪ね、作る過程を拝見する機会に恵まれた。60年もの間そのお店で働かれている和菓子職人の方が、生菓子を作る所作は本当に美しかった。一定のテンポで餡を手のひらで丸める。木のヘラでモチーフを形作る。まるでメトロロームのように淡々と、でもリズミカルに同じ作業が繰り返され、あっと言う間に季節の生菓子が並んでいった。取材の後、作りたての生菓子を頂けたのだが、本当に優しい甘さで口の中で餡がふわっと広がった。生菓子を味わう私達に、その職人の方は微笑みながらゆっくりと、菓子作りについていろいろ話してくださった。

「菓子は、形そのものだけでなく、盛った時器に映る影を意識して創るんですよ」。「色も、戦前は一つの赤しかなかったけれど、今はいろんな赤があるでしょ。たとえばピンクがかった赤とか、紫がかった赤とか。どういう色味の赤が流行しているかを知る為に、私も毎月いろんな婦人雑誌を見るんです」と言われた。 菓子の名前も俳句のような表現だそう。「菓子の形そのままを言うのではなく、見た人に想像させるように名付けます。菓子と名前が合わさって、初めて一つの表現になるんです」。その取材は、10月初めの号だった。撮影の為にお願いしていた生菓子は、想像していた華やかな紅葉の秋ではなく、寒天が素材に使われた涼し気な印象の生菓子。尋ねると「10月初めは、ふもとではまだまだ暑い日が多いんです。その頃は、その暑い日の間に秋風を感じる日が時々ある。でも、ふもとではそうでも、山の上の川の中では、紅葉がはじまっているんですよ」と。『水草紅葉』と名付けられたその生菓子。説明を聞いて、もう一度愛でると、寒天にちりばめられた小さな朱色の点々に、初秋の山の風景を感じた。80才近いその職人の方が、言われた。「日々、勉強です」と。長い歳月を経た今もだ。なんて深い言葉なんだろうと、頭を金槌で叩かれたくらいショックだった。

そんな話しを聞けてから、引き算された作り手の想いをどれだけ受け止められるか、あれこれ想像しながら和菓子の包みをとく。ひもの色や包み紙の風合い、箱の形。菓子を口にする時に、じっと眺めてしまう。そして、前よりもっと捨てれなくなった。

ずいぶん貯まった紙たち。やっと引き出しの中から出してやれる。デジカメで切抜いて、WEB上にスクラップ。どこが好きで何に魅かれるのかも、自分の言葉で書き添えてみたい。

『包む紙・切抜き帳』……日々出会う、旅で出会う、小さな紙に愉しみを。

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